• インフォメーション
  • コラム
  • セミナー
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ
  • EN
  • トップ
  • ご挨拶
  • 業務内容
  • 弁護士等紹介
  • アクセス情報
  • 採用情報
  • お問合わせ
  • 海外展開支援コラム

    2022/04/14

    残業代請求に関する法的リスクの回避方法

    残業代請求に関する法的リスクの回避方法

     近時、未払い残業代に関する紛争が激増しています。インターネット上には未払い残業代請求を促すようなウェブサイトも存在しています。中小事業者にとって、予期せず高額な未払残業代を請求されることは大きな負担になり得ます。
     そこで、本稿では、いくつかの場面に分けて、残業代請求に関する法的リスクとその回避方法をご紹介し、経営者がとるべき対策を解説します。

    1 「労働者」であるかが問題となる場合

    ⑴ 契約関係が雇用契約ではなく、労基法に定める「労働者」でなければ、「残業代」すなわち労基法に定める「割増賃金」の支払義務が生じません。
      「労働者」性が問題となるのは、請負契約や業務委託契約を締結して、一定の仕事をしてもらっている場合です。自己所有のトラックを持ち込み、会社の指示に従って製品等の輸送をする運転手や、システム開発のために事業所内で業務をしているエンジニアなどが典型的です。

    ⑵ この点、単に形式的な契約の名称で使用関係の有無が決定されるものではないことに注意が必要です。
      仮に「業務委託契約」を締結していても、仕事の内容に自由がなく、会社から業務の仕方について指揮命令を受けたり、業務の場所や時間が限定されているような場合には、「雇用契約」であると認定されてしまいます。
      特に、毎月一定額の支払いで長時間拘束してシステム開発を行ってもらっているような場合に「労働者」性が肯定されると、多額の残業代請求につながるリスクがあります。

    ⑶ 対策としては、契約書の記載内容に注意し、当該契約の性質に合わせた仕事の仕方を実際にしてもらうことです。具体的には、①始業時刻や終業時刻は定めない、②仕事の場所に関する拘束は必要最小限度にする、③出来高に応じた対価の支払いをする、等の対策が考えられますが、業務内容によって千差万別になりますので、危ないかなと感じたら専門家に相談なさることをお勧めします。

    2 「労働時間」であるかが問題となる場合

    ⑴ 「労働時間」とは
      一般的に「残業代」とは、残業(時間外労働)により生じる賃金を指す言葉であり、労基法に定める「割増賃金」がこれに該当します。
      そこで、「残業」について理解するためには、まず「労働時間」の意義を正しく理解しなければなりません。
      労働時間に該当するか否かは、「使用者の指揮監督のもとにあるかどうか」で判断されます。問題になりがちなのは、以下のような場面です。

    ⑵ 待機時間 
      来客や電話対応のための待機時間は、休憩時間にあたる場合と労働時間にあたる場合とがあります。例えば、昼食休憩の時間であっても、その時間中に来客当番として事業所内に待機させられているような場合には、当該時間は労働時間となります。
      トラック運転手が荷待ちのために駐停車している時間も、いつでも運転できるように車内で待機せざるを得ないような場合には、労働時間となりますので、注意が必要です。休憩であったのか否かが、デジタコのデータでは判別できないこともありますので、業務日報で管理するなどの工夫が必要です。

    ⑶ 作業開始前の準備時間や作業終了後の後始末の時間
      作業開始前の準備行為として、交替引継ぎ、車両や機器等の点検、整理整頓などをする場合には、労働時間となります。朝礼やミーティングなども、労働者が参加を義務付けられている場合には、労働時間に該当します。作業終了後の後始末についても同様です。トラック運転手が帰庫後に業務日報を作成する時間も当然ながら労働時間です。
      よって、これらの時間も始業・終業時刻外であれば、残業にカウントされることになりますので、注意してください。

    3 労働時間の管理の場面(タイムカードの問題を中心に)

    ⑴ 労働時間の管理義務
      会社(使用者)には、労働時間を管理する義務があります。
      そこで、労働審判や訴訟等の手続では、労働者側が主張する労働時間に対して、使用者側がタイムカード等に基づいて、合理的に反論をしなければなりません。しかし、以下のような場合、タイムカードの打刻と実労働時間にずれが生じて問題となります。

    ⑵ タイムカードの打刻漏れ
      労働者が打刻を忘れてしまったような場合です。この場合でも、労働していた事実がある場合には、欠勤扱いにするような運用はできず、賃金を支払う必要があります。
      平時から長時間の時間外労働が行われているような場合に、打刻漏れが頻発すると、ある日突然多額の残業代請求がなされる危険もあり、注意が必要です。打刻漏れには厳しく対応し、繰り返される場合には、懲戒処分を行うことも検討するべきでしょう。

    ⑶ タイムカード打刻前、打刻後の労働
      いわゆるサービス残業のような場合です。もとより、使用者側がサービス残業をさせることは論外ですが、ケースによっては、残業削減を会社から要請されているものの、実際には業務が終わらないことから、労働者側が自発的にサービス残業を行うこともあります。
      社員に対する普段の教育・指導を十分に行い、管理職が目配りをすることが大切です。特に、いつも遅くまで労働しているのに残業時間が少ない社員や、警備システムの解除やセットの時刻とタイムカードの打刻時刻が大きくずれているような場合には、注意が必要です。事業所に滞在していた時間を自動的に記録するスマホのアプリを労働者が使用していることもありますので、きちんと対策してください。

    ⑷ 必要のない早出や勤務終了後の居残り
      必要もないのに事業所に早出をして新聞を読んでいたり、勤務は終了しているのにだらだらと歓談をするなどして居残りをしている場合です。これは、残念ながら非常に多く見られる形態です。
      実労働がないのに、多額の残業代を支払わなければならないリスクのほか、所定労働時間内にきっちり仕事を完了させている優秀な社員に対する悪影響もあります。
      必要ない早出を禁止し、終業時刻には退社するという指導を徹底することです。また、次に述べる残業許可制を導入することも検討するべきでしょう。

    4 残業の許可制の導入

     上記3⑷のような場合で、状況が改善しないときには、残業の許可制を導入し、許可のない残業については禁止することも考えられます。
     ただし、この場合でも、単純に「許可がないから残業代は出さない」ということはできません。実際に、残業を行う場合にはそのほとんどが許可を得た上で行っていること、許可なく残業を行った場合には注意・指導がなされていること、許可を求められた場合の上司の対応が適切であること等の運用面での工夫が必要です。
     導入に当たっては、残業許可申請書等の書式を含め、その運用について専門家にご相談ください。

    5 固定残業代の問題点

     残業代として、会社が毎月定額の手当を支給している場合があります。
     それが、「定額時間外手当」等の名称となっており、労働時間がきちんと管理され、当該手当で支給される額が本来的な計算による残業代に満たないときには、差額分を残業代として支給しているのであれば、問題ありません。
     しかし、「特定勤務手当」とか「精勤手当」等の名称で支給されていたり、差額分の支給がないようなケースには、大きなリスクがあります。
     使用者側が固定残業代として支払っていた当該手当が、残業代として認められないばかりか、当該手当が時間外手当を算出する際の基準賃金に含まれることとなってしまい、結果、全く想定しなかった高額な残業代の二重払いを余儀なくされるのです。
     もし、固定残業代を採用している場合には、当該手当の名称や差額分の支給等について、今一度よく確認してください。

    6 管理監督者の問題

     労基法上、「監督若しくは管理の地位にある者」は、時間外割増賃金に関する規定が適用されません。
     しかし、有名な日本マクドナルド事件判決で、店長の管理監督者性が否定されたように、一定の要件を満たさなければ、管理監督者性は否定されてしまいます。
     紙面の都合上、詳細は割愛しますが、いわゆる名ばかり管理職が存在し、残業代を支給していない場合には、法的リスクは高いといえますので、チェックの上で改善が必要です。
     詳細は、当事務所のコラム「労基法上の労務監督者性について」週刊帝国ニュース栃木県版をご参照ください。

    7 未払賃金不存在確認書等の活用

     残業代が発生している場合であっても、労働者がその請求権を放棄している場合には、一旦発生した権利が消滅することになります。ただし、放棄が認められるためには、真に労働者の自由意思に基づく合理的な理由が存在する場合に限られます。
     この点、実際の社会において、日常的に労働者が残業代を放棄することは考えられません。
     しかし、大きなトラブルになるのを防止するために、例えば、四半期ごとに、未払残業代の有無を使用者と労働者が相互に確認し、過不足があったときには精算して、その他には未払賃金がないことを書面で残しておくこと等は有意義な対策です。
     消滅時効に関する法律は改正されており、2020年4月1日以降に支払期日が到来する全ての労働者の賃金請求権の消滅時効期間を賃金支払期日から5年(これまでは2年)に延長しつつ、当分の間はその期間は3年とされています。つまり、2023年3月末に過去3年分の未払賃金請求がなされるリスクがあるのです。
     労使双方のためにも、未払賃金の有無を一定期間ごとに書面で確認しておくことは検討に値する対策と考えます。

    8 最後に

     終身雇用制や年功序列型賃金が崩れ、転職が当たり前になっている現代においては、労働者側の意識も大きく変容しています。
     経営者の皆様も今の時代に即した仕組みを作り、適切な対策をとることが重要であると考えます。

     
    以  上